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新宿人御用達 名店・名品

〔曙橋〕満(みつる)

手間隙惜しまずに毎日焼き上げるパンが魅力の和風ベーカリー

2014/01/10

京町家風の黒い格子からパンを焼く香り

曙橋駅から地上に出て合羽坂交差点方面に歩いていると、ほどなく京町家風の黒い格子が見えてきます。一見和風レストランか、それとも和風インテリアの美容室かと見間違ってしまいますが、ほのかに漂ってくるのは、紛れもなくパンを焼く香り。
通路の奥に歩を進めると入り口があり、間接照明の柔らかい灯りに包まれた落ち着いた店内につながっています。

今回は、和の惣菜を使ったパンが人気を博し、オリジナリティあふれるサービスでお客様を魅了するベーカリー「満」さんをご紹介します。専務の吉田貫さんにお話を伺いました。
満(みつる)
■住所:東京都新宿区住吉町8-10 ライオンズマンション市谷102
■アクセス:都営新宿線曙橋駅より徒歩1分
■TEL:03-5367-4007
■営業時間:月曜~土曜/8:30~21:00、日曜、祝日/9:30~20:00
■定休日:1月1日~3日

「発想の可能性は無限」の考えから生まれた町のパン屋

店舗奥にはパン工場を併設しています。
店舗奥にはパン工場を併設しています。
「満」さんが開店したのは、2005年5月のこと。
それに先立って、2000年に世田谷区の三軒茶屋で、和風ベーカリー「濱田家」を立ち上げました。寿司店を改装した店内で販売したのは、ひじきやきんぴらなど和の惣菜を包み込んだパン。13年前の開店当時には珍しく、注目を集めたと言います。
和だけにこだわっているわけではないものの、「おばんざいに合うものはパンにも合う」という考えのもと、数々の人気商品を生み出してきました。さらに、作り置きをせず、常に焼きたてをお客様に提供するというポリシーで、三軒茶屋の町で愛されるパン屋に成長していきました。
竹をあしらった店舗への通路には<br>季節の飾り付けも。
竹をあしらった店舗への通路には
季節の飾り付けも。
そして2005年、ecute品川(JR品川駅構内のショッピング空間)への出店の誘いがあり、転機を迎えます。駅構内では焼きたてのパンを提供することはできないため、「濱田家」ブランドとは別に立ち上がったのが「満」ブランドです。
駅に供給するパンを焼くための工場を併設して曙橋に開かれた店舗は、「濱田家」と同じくこだわりの演出にあふれています。京都の町家風の外観、店内に入って初めてパン屋だとわかる驚き、しっとりと落ち着いた内装、焼きたてのパンを対面式で販売するスタイル、そして厳選された和風ベーカリーの数々。
工場では次々にパンが焼かれていきます。
工場では次々にパンが焼かれていきます。
パンのレパートリーは60種類に及び、その中には曙橋限定のものが3~4品、季節ごとに変わる商品が10品ほど用意されています。「お客様が飽きてしまわないように」と、社員全員がアイデアを出し、年に4回の試作を経て、新しい味の提供を実現させてきました。
その根底に流れるのは「発想の可能性は無限」という創業者・濱田豊さんの考え。この具材はパンに合わないという先入観を捨て、まずは試して試行錯誤を繰り返し、本当に美味しいと思えるものだけを店頭に並べています。
和の趣でしっとりとシックな店内。<br>対面式スタイルをとっています。
和の趣でしっとりとシックな店内。
対面式スタイルをとっています。
大きな特徴の一つである対面式販売は、トレーにトングでパンを乗せて会計するのに比べ、効率が悪いように見えますが、実はいろいろな思いが託されています。
「満」さんでは、パン職人も店頭に立って、対面販売を通してお客様と対話をします。作り手がお客様と接する機会を作ることで、お客様に食べ方を提案し、また逆にお客様の要望・意見を直接聞ける貴重な場となっています。
その中から新商品が生まれれば、自分が考案した商品について、お客様に美味しいと直接言っていただける機会を得られます。

取材中、ベビーカーを押して入店される方をお見かけしました。フラットな店内で入りやすいということだけではなく、ベビーカーを押しながらトレーにパンを乗せるという煩わしさがなく、じっくりとパンを選べるのが魅力なのかもしれません。

焼き立てに勝るレシピはなし! 手間隙を惜しまないパンが人々の心を掴む

毎日200~300個は作るという味付け卵。
毎日200~300個は作るという味付け卵。
ecute品川やecute日暮里への出荷は朝5時から始まります。
パンはこね始めてから焼き上がるまで4時間かかるため、工場は365日24時間稼働し、1日3回、駅へと送り出します。
それとは別に、曙橋で販売するパンは毎日800~1000個。焼きたてにこだわり、お客様が多くなる時間に合わせて焼き上げていきます。
「焼きたてに勝るレシピはないと思います」と吉田さん。焼きたて1時間以内にお客様が召し上がるのが最善ですが、冷めても固くならないように、粗熱がとれたものをビニールに入れて販売しているそうです。
曙橋限定商品「黒イチジクとチョコ」
曙橋限定商品「黒イチジクとチョコ」
一つひとつのパンは、「手間隙を惜しむのはやめよう」という考えのもとに作られていますので、毎日作って、毎日お客様に提供します。

りんごは毎日切って蜂蜜をたして釜で煮込み、カスタードは毎日炊き、きんぴらやひじきはお惣菜屋さんのように毎日大量に作っています。
パンの生地も毎日練ります。常に同じ味にするために、生の状態で生地の味を確認する徹底ぶり。
季節によって味の感じ方が違いますが、常に同じ味を提供し続けるために、必ずベテラン職人によるチェックが行われているそうです。

人気を集める味をいくつかご紹介しましょう。
一番人気の「豆パン」は赤えんどう豆と生地が絶妙のハーモニーを生み出します。
一番人気の「豆パン」は赤えんどう豆と生地が絶妙のハーモニーを生み出します。
なんと言っても一番人気で、リピーターが非常に多いというのが「豆パン」です。
吉田さんに「自分で食べても、これに勝るパンはなかなか出せない」と言わしめる逸品。その魅力を、「高温短時間で焼きあがる柔らかい食パンに、蜜にコーティングされた塩気のある赤えんどう豆のホクホク感がものすごい勢いでマッチする」と教えてくださいました。豆パン数個に、他のパンを一つずつ何種類か、という買い方をなさるお客様が多いとか。最近では、豆パンにあんこを入れた、豆あんぱんも人気だそうです。
「くるみレーズン」 手に取ったときの重みは、この具材の多さから。
「くるみレーズン」 手に取ったときの重みは、この具材の多さから。
二番人気は、自家製天然酵母の生地にくるみとレーズンを練り込み、甘めのクリームチーズを入れた「くるみレーズン」。
たっぷり入った濃厚なクリームチーズが強すぎない存在感を示し、それがしっとりとした生地によって優しくまとまっているように思いました。
「味付たまご」 味付け卵が丸々一個入っています。
「味付たまご」 味付け卵が丸々一個入っています。
三番人気は、通常の10倍くらいの出し醤油に漬けたゆで卵を丸ごと一個入れた、その名も「味付たまご」。
味がよくしみたゆで卵と揚げパンの風味が食欲をそそります。「満」さんのパンは、どれも具がたっぷり入っています。
「豚の角煮」 マスタードの風味が角煮の旨さを引き立てます。
「豚の角煮」 マスタードの風味が角煮の旨さを引き立てます。
和のお総菜は、パン用に少し濃い目の味でインパクトが出るようにし、水分は十分に飛ばしているそうです。
例えばこの「豚の角煮」は、ゴロッと大きな角煮が入っていて、その濃すぎず薄すぎない味が、不思議なことにパンにとてもマッチします。
「揚げぱん」などの甘味のあるパンも人気です。
「揚げぱん」などの甘味のあるパンも人気です。
この他にも、やわらかさが好評の食パンや、揚げパン、生チョコ(柚子入り)、落花生あんぱん、黒イチジクとチョコなど、様々な種類のパンが並びます。約15名のパン職人がローテーションを組んで作った焼きたてパンは、そのどれも手がかかっていて選ぶのにとても迷ってしまいますね。

地域に根ざすスタイルを貫き通す誇りと覚悟

クリスマスに向け、お客様による塗り絵が飾られていました。
クリスマスに向け、お客様による塗り絵が飾られていました。
シックな店内に入ったとき、目に飛び込んできたものがあります。「みんなのぬりえ」コーナーに貼られた塗り絵です。
商店街の取り組みの一つで、この塗り絵を描いて持ってきたお子さんには、特製の「酒種パネトーネ」をプレゼントしているそうです。
イタリアのパンとして知られる「パネトーネ」ですが、「満」さんでは酒種を使い、ドライフルーツを日本酒に漬け、日本風のものに仕上げています。「これがきっかけでまた足を運んでくださったり、地域の方が喜んでいただければと思っています」(吉田さん)
柔らか~い食パンも絶大な人気を得ています。
柔らか~い食パンも絶大な人気を得ています。
「地域に根付くように協力していきたい」という言葉通り、曙橋の町の特性を活かした展開をしています。
曙橋は会社員や男性の来店が多いので、昼食時に焼き上がるようにボリュームのあるパンを用意したり、クールビズのときには1時間開店を早めたり、昼や季節限定の商品を出したりと、工夫をされています。外国人が好まれることの多い甘いパンや、会社帰りの方に向けて朝食用のパンも提供しています。
また、パネトーネの酒種を使って甘酒をふるまったり、東京マラソンのときに店舗前で販売したり、百貨店の催事に参加したりと、地域に根ざした町のベーカリーを目指しています。
もちろん地元の幅広い年齢層の方々にも愛され、さらにはパン屋さんめぐりのバスツアーで訪れる方もいるそうですよ。
クリスマス向けの「シュトーレン」を、和紙に包んで販売。
クリスマス向けの「シュトーレン」を、和紙に包んで販売。
満の和紙のシールや紙袋など、お土産にも使えるような、リッチ感を持たせたパッケージも魅力です。
「常に、なるべく買いやすいお値段で提供して、少し得をしたなと思っていただけるとうれしいですね」(吉田さん)

「満」ブランドの3店舗だけではなく、「濱田家」「濱田家カフェブランド」「Richu 浜田家」と、7店舗を取り仕切る吉田さんは、めまぐるしい日々を過ごしながらもとても充実されている様子です。
社員研修や衛生講習に力を入れ、「全員の意識を高めて、お客様にいい商品を提供していきたい」と、前を向きます。
お客様の対話から生まれる商品。地域に根ざした「満」さんで、これからどのような味が生まれてくるのか、楽しみに待ちたいと思います。皆さんも足を運んでみてはいかがでしょうか。
※取材時の情報です。変更となっている場合もございます、ご了承ください。